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「30年家賃保証」は「30年同額」ではない——サブリース契約と借地借家法32条

節約・お金
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①「空室でも、30年家賃保証。あとはお任せください」

シリーズ第10回は、サブリース契約です。

これまでは投資信託や保険が中心でしたが、今回は不動産。とくに、退職金や相続税対策の文脈で、土地や持ち家のある世代に強く勧められる契約です。

売り文句は、とても魅力的です。「アパートを建てれば、30年間、家賃を保証します」「空室が出ても、毎月決まった額が振り込まれます」「管理も入居者対応も全部こちらでやるので、あなたは何もしなくていい」。値動きを気にする株や投信と違って、"安定した不労所得"に聞こえる。だから、まとまった資産を持つ人ほど刺さります。

ですが、この「保証」という言葉には、契約書の奥に隠れた仕掛けがあります。あまりに誤解を生むので、とうとう国が規制に乗り出しました。中身を開けます。

②仕組みを開ける——「保証」されるのは、満額ではない

まず、サブリースの仕組みです。

  • オーナー(あなた)が物件を持ち、それをサブリース業者が一括で借り上げる(マスターリース契約)
  • 業者はその部屋を入居者に転貸し、家賃を受け取る
  • 業者はオーナーに、入居状況に関係なく毎月決まった「保証賃料」を支払う

ここまでは売り文句どおりです。問題は、その保証賃料がいくらか。保証されるのは、満室時の家賃そのものではありません。そこから業者の取り分(一般に家賃の1〜2割程度)を引いた額です。空室リスクを引き受けてもらう代わりに、家賃の一部を恒常的に渡す——これがサブリースの基本構造です。

つまり①の「不労所得」は、最初から1〜2割目減りした状態でスタートします。これはまだ、想定の範囲。本当の問題は次です。

③「30年保証」の正体——法律で、いつでも減額できる

サブリースの最大の落とし穴は、保証賃料が、契約期間の途中で減額され得ることです。しかもこれは業者の良心の問題ではなく、法律の仕組みです。

鍵は借地借家法32条(賃料増減額請求権)。「経済事情の変動などで賃料が不相当になったとき、貸主・借主のどちらからでも賃料の増減を請求できる」という規定です。サブリースでは、借主=サブリース業者。つまり業者は、自分の採算が悪化すれば、この法律を使ってオーナーに減額を請求できます

「でも契約書に"30年間、家賃は変わりません"と書いてある」——それでも止められません。最高裁は、この賃料減額請求権について、それを排除する特約があっても法律上は減額請求できるという立場を取っています。契約書の保証文言より、法律が優先する。だから「30年家賃保証」は、「30年間、契約は続く」という意味であって、「30年間、同じ金額が振り込まれる」という意味ではないのです。

実際、業者が数年後に「近隣に新築が増えて埋まらないので◯%減額します」と通告し、応じなければ調停・裁判に持ち込まれる、という事例が長年くり返されてきました。

オーナー側が不利な点が、もう一つあります。この契約、オーナーからは簡単に解約できません。借地借家法では、貸主(オーナー)が借主(業者)との契約を終わらせるには「正当事由」が必要で、プロである業者を一方的に切るのは難しい。減額は向こうの都合でできるのに、縁を切るのはこちらの自由にならない——立場が逆転した契約なのです。

④国土交通省が「家賃保証」を規制した

ここまでの話、私が大げさに言っているのではありません。国が、法律で規制しました。

2020年(令和2年)12月、サブリース新法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)が施行されました。国土交通省はそのガイドラインで、こう定めています——「家賃保証」など誤認を生じやすい文言を広告に使う場合は、その近くに「定期的な家賃の見直しがあること」「借地借家法により家賃が減額され得ること」を明示しなければならない

言い換えれば、国が「"家賃保証"という言葉は、そのままだと消費者を誤解させる」と公式に認めたということです。あわせて、事実と違う説明(不実告知)や執拗な勧誘も禁止され、違反したサブリース業者には業務停止などの処分が出ています。建てさせる側の建設業者・不動産業者も、規制の対象です。

監督官庁がここまで踏み込むのは、それだけ「保証」を信じたオーナーの被害が大きかったからです。

⑤「お任せ」の正体——リスクは、オーナーに戻ってくる

サブリースの本当の商品価値は、利回りではありません。「空室の不安から解放される」「何もしなくていい」という安心です。第9回のファンドラップと、構造はよく似ています。

ここで、第3回からの1分ルール——「仕組みを1分で説明できない商品は買わない」——を当ててみます。サブリースで、空室や家賃下落のリスクを最終的に誰が負うのか。1分で説明できるでしょうか。

答えは、回り回ってオーナーです。入居が悪化すれば、業者は法律で保証賃料を下げる。それでも採算が合わなければ、契約自体を見直そうとする。つまり、表向きは業者がリスクを引き受けているように見えて、いざ市場が冷え込むと、そのリスクはオーナーに送り返される設計になっています。安心という商品の中に、見えない形でリスクが溶けている。保険料がコストに溶け、手数料がレートに溶けていたのと、同じ文法です。

⑥じゃあどうするか——「建ててから考える」の順番を、逆にしない

まず、これからの人へ。サブリースが特に危ないのは、「物件を建てる」とセットで勧められるときです。相続税対策や土地活用の名目で、「建築費は家賃保証でまかなえます」と背中を押される。けれど、③で見たとおり、その保証はいつでも減額され得る。借りた建築費(ローン)は減らないのに、保証賃料は減る——この非対称こそ、過去に多くのオーナーが負債を抱えた原因です。「建ててから運用を考える」のではなく、「その土地に、借金をして建てる必要が本当にあるのか」を先に考える。順番を、逆にしないことです。

すでに契約している人は、焦って解約に走る前に、契約書の三点を確認してください。

  • 賃料改定(減額)の条項——何年ごとに見直され、どこまで下げられる契約か
  • 免責期間——新築直後など、家賃が支払われない期間がないか
  • 中途解約の条件——オーナーから解約する場合の違約金や、解約できる事由

数字と条文を見たうえで続けるなら、それは判断です。「保証だから大丈夫」で見ずに続けているなら、それは判断ではなく放置です。

そして、このシリーズで一貫して言ってきたこと。まとまった資産や相続対策を、窓口や営業に勧められるまま、その流れで始めない。大きく増やすより、まず守る。無理にリスクを取らないことが、いちばん確実な防御です。

まとめ:「保証」の二文字の、裏を読む

  • サブリースは、業者が物件を一括借り上げして入居者に転貸し、オーナーに保証賃料を払う仕組み。保証されるのは満額ではなく、業者の取り分(家賃の1〜2割)を引いた額
  • 最大の落とし穴は借地借家法32条。業者は採算悪化時に保証賃料を減額請求でき、「減額しない」特約があっても法律上は止められない。「30年保証」は「30年同額」ではない
  • しかもオーナーからは簡単に解約できない(貸主の解約には正当事由が必要)。減額は向こうの都合、解約はこちらの不自由
  • 国土交通省がサブリース新法(2020年12月施行)で規制。「家賃保証」は誤認を生む文言として、減額され得る旨の明示を義務化。違反業者には処分
  • 防御は、建てる前提を疑うことと、勧められるまま始めないこと。既契約者は「減額条項・免責期間・中途解約」を確認

このシリーズで、私はずっと「中身を開けて値札を見よう」と書いてきました。サブリースで開けるべきは、値札ではなく「保証」の二文字の裏です。そこには小さな字で、「ただし法律により減額され得る」と書いてある。安心を買ったつもりが、リスクだけ手元に残る——その仕組みを、契約する前に、自分の目で確かめてください。

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