①先に立場を言います——保険は「人生が破綻すること」にしか掛けません
最初に書いておくと、私は貯蓄型保険に入ったことが一度もありません。勧誘を受けて断ったのですらなく、そもそも検討の土俵に乗ったことがないんです。
理由は単純で、私の中で保険のルールが1行で決まっているからです。「それが起きたら人生が破綻すること」にだけ、保険を掛ける。
私の場合、該当するのは自動車事故で相手を死なせてしまうケースくらいです。賠償額は億に届くことがあり、貯金でどうにかなる金額ではない。だから任意保険の対人・対物賠償には入る。逆に、車が壊れる・レッカーを呼ぶ程度の「痛いけど破綻はしない」出費は、保険ではなく貯金で受ける——この考え方は車両保険とJAFの記事で書いたとおりです。
このルールに照らすと、貯蓄型保険は不思議な商品です。「貯蓄もできて、保障もついて、満期や解約でお金が戻る」——破綻に備える道具のはずの保険に、なぜか貯金の機能がくっついている。窓口で勧められると、たしかに魅力的に聞こえます。掛け捨ては「お金をドブに捨てるみたい」で、貯蓄型は「どうせ払うなら戻ってくる方が得」に見える。
ところが、この商品の中身を開けて部品ごとに値札を見ていくと、景色が変わります。今日はそれをやります。
②中身を開ける——貯蓄型保険は3つの部品でできている
貯蓄型保険(終身保険・養老保険・変額保険・学資保険・個人年金保険など、解約返戻金や満期金があるタイプの総称)の保険料は、ざっくり3つに分解できます。
- 保障の部品(純保険料)——万一のときに保険金を払うための原資。掛け捨て保険の中身はほぼこれです
- 保険会社の経費(付加保険料)——営業職員の人件費、広告費、店舗、事務コスト。あなたの保障にも貯蓄にもならないお金
- 積立の部品——残りが運用に回り、解約返戻金や満期金の原資になる
問題は2番です。この経費部分、ほとんどの保険会社は金額を開示していません。商品パンフレットのどこを見ても「あなたの保険料のうち、いくらが経費か」は書いていない。
唯一、保険料の内訳を公開しているネット系の保険会社(ライフネット生命)のデータでは、経費部分は保険料の3割弱〜4割。業界には5割近い会社もあると言われています。しかも若い人・保険金額が小さい契約ほど、経費の割合は高くなる傾向があります。
投資信託なら、信託報酬は0.1%単位で開示されていて、高ければ買われません。ところが貯蓄型保険は、数十%級のコストが「保険料」という一語に溶かし込まれていて、比較のしようがない。言ってしまえば、割高で中身の見えない投資信託に、薄い掛け捨て保険を貼り合わせてラッピングした商品——それが貯蓄型保険の正体です。
③なぜ「入った瞬間に負け」なのか——解約返戻金のカーブ
「でも長く持てば戻ってくるんでしょ?」——はい、ここが本丸です。
契約してすぐの時期、あなたの保険料の大半は経費と保障に充てられ、積立に回る分はごくわずかです。だから契約から数年で解約すると、戻ってくるお金は払った額を大きく下回ります。早期解約は、ほぼ確実に元本割れです。
さらに最近主流の「低解約返戻金型」は、保険料を安く見せる代わりに、払込が終わるまでの解約返戻金を従来型の7割程度に抑えてあります。つまり20年払いなら、20年間ずっと「解約したら元本割れ」の状態が続く。
これを別の言い方をすると——契約した瞬間に、向こう十数年〜数十年の「途中でやめたら負け」が確定する商品だということです。人生には引っ越しも転職も収入減もあるのに、その間ずっと、お金は保険会社の中に人質として座っている。途中で必要になったら、元本割れで取り返すか、契約者貸付という名の「自分のお金を利息付きで借りる」手段しかありません。
貯金なら、今日下ろせて1円も減りません。この流動性の差は、金利の差より大きいと私は思っています。
④同じ保険料で、保障はいくら違うか
「薄い掛け捨て保険」の方も数字で見ておきます。
貯蓄型は保険料の多くが経費と積立に回るぶん、同じ保険料で買える保障額が掛け捨てより大幅に小さくなります。実際、貯蓄型から掛け捨てに見直したら「死亡保障を増額したのに、保険料は下がった」というケースは珍しくありません。それくらい、貯蓄型の保険料は「保障以外のもの」で膨らんでいます。
つまり貯蓄型保険は、保障の道具としても、貯蓄の道具としても、それぞれ専用品に負けている。保障なら掛け捨て、貯蓄なら預金、運用なら低コストの投資信託——バラで買えば、それぞれ何分の一かのコストで済みます。セットにする合理性は、買う側には特にありません(売る側には大いにあります)。
⑤これは個人の感想ではなく、金融庁も注意喚起しています
「ぼったくりは言い過ぎでは」と思った方のために、公的な指摘も置いておきます。
貯蓄型の代表格である外貨建て保険は、金融庁が繰り返し問題視してきた商品です。販売した銀行・証券会社が受け取る初年度の販売手数料は4〜7%程度で、投資信託の約3倍とされる水準。「元本割れする商品だと聞いていない」という苦情の発生率は他の保険商品より高いと金融庁が指摘し、販売手数料の開示義務化や監督強化が進められてきました。
売り手に入る手数料が厚い商品ほど、熱心に勧められる——身も蓋もないですが、窓口で勧められる商品の並び順は、あなたの利益順ではなく手数料の順かもしれない、という視点は持っておいて損がありません。
⑥「貯蓄型保険」5種ミニ図鑑——名前は違っても構造は同じ
- 終身保険:一生涯の死亡保障+積立。低解約返戻金型も同じ構造で、途中解約のペナルティがより重い
- 養老保険:満期まで生きたら満期金、死んだら保険金。保障と貯蓄の合体そのもの
- 変額保険:積立部分を投資信託で運用。「だったら投資信託を直接買えば?」への答えは、たいてい用意されていない
- 学資保険:子どもの教育費version。返戻率は雀の涙で、インフレを考えると実質目減りも
- 個人年金保険:老後資金version。数十年お金を固定して、利回りは控えめ
外貨建て・一時払いも、通貨と払い方が違うだけで同じ仲間です。共通点はひとつ——投資と保険が混ざっていること。混ぜた瞬間にコストが見えなくなる。だから混ぜない。これがこの記事の結論の半分です。
⑦じゃあどうするか——そして、もう入っている人へ
これから勧められる人の答えはシンプルです。
- 保障が必要なら、掛け捨て。同じ保障がずっと安く買えます
- 貯蓄は預金、運用は低コストの投資信託(NISA等の非課税制度から)
- 保険にお金を増やす仕事をさせない。保険の仕事は「破綻の回避」だけ
すでに入っている人は、ここで焦って解約ボタンを押さないでください。即解約だけが正解ではありません。契約からの年数・予定利率・払込状況によって損益分岐は全部違いますし、昔の高予定利率の契約(いわゆるお宝保険)なら持ち続ける方が得なこともあります。保険料の支払いだけ止めて契約を残す「払済保険」という選択肢もあります。まずは保険証券を出して、解約返戻金の現在額と払込総額を見比べるところから。そこは個別の判断です。
なお、自動車保険のような「破綻に備える側の保険」の見直し方は自動車保険の記事に書いています。守るべき保険と、手放していい保険の区別がつくと、固定費は静かに、大きく下がります。
まとめ:混ぜるな、見えなくなる
- 貯蓄型保険=保障+非開示の経費+低利回りの積立のセット商品。経費は唯一の公開例で3〜4割、5割近いと言われる会社も
- 解約という出口で見れば、契約した瞬間から長期間の元本割れが確定。低解約返戻金型は払込完了まで7割水準
- 保障としても貯蓄としても専用品に負ける。外貨建てに至っては金融庁が注意喚起する水準
- 結論は1行。投資と保険を混ぜない。保険の仕事は破綻の回避だけ
私が貯蓄型保険に入ったことがないのは、知識があったからではなく、ルールが先にあったからです。「破綻すること以外に保険を掛けない」——この1行だけで、中身の見えない金融商品の大半は、最初から視界に入らなくなります。

