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金融庁が「買う意義はほとんどない」と書いた金融商品——仕組債・仕組預金の中身

節約・お金
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①「仕組」と名の付くものに共通する、一つの問い

シリーズ第3回は、名前からして正体不明の商品——仕組預金と仕組債です。

銀行のメルマガや窓口で「定期預金より金利が高い」と案内される仕組預金。証券会社で「債券なのに高利回り」と勧められる仕組債。どちらも売り文句は同じで、普通の預金・債券より金利が高い

第1回第2回を読んでくれた方なら、もう反射的にこう思うはずです——その上乗せ分、誰が何を売った代金? タダで金利が上がることはありません。今回も中身を開けて、何が売られているのかを確かめます。先に結論を言うと、売られているのはあなたの選択権です。

②仕組預金を開ける——満期も通貨も、決めるのは銀行

仕組預金は、普通の定期預金に「銀行側のオプション(選択権)」を組み込んだ商品です。代表的な型を見ると、構造がよく分かります。

  • 満期を銀行が決める型(期間延長型):「最短1年・最長10年」のような商品。金利が上がれば銀行は満期を延長し、あなたのお金を低い金利のまま最長期間まで拘束できます。金利が下がれば早期に償還して打ち切る。どちらに転んでも、有利な方を選ぶ権利は銀行が持っています
  • 受け取る通貨が変わる型(デュアルカレンシー型):円で預けたのに、満期時の為替次第で外貨で返ってくる商品。返ってくるのは決まって「円で受け取った方が得だった」局面で、外貨に替わった時点で円ベースの元本割れです
  • 共通ルール原則、中途解約できません。やむを得ず解約すると、調整金が差し引かれて元本割れの可能性が高い、と銀行自身が明記しています

「定期より高い金利」の正体は、この選択権を銀行に売り渡した代金です。あなたは金利の上乗せと引き換えに、「いつ返ってくるか」「何で返ってくるか」「途中でやめる自由」を手放している。

どれくらいの値段で売らされているか、見える実例があります。ある仕組預金の商品説明には、預け入れた直後に中途解約した場合の調整金は元本の3%程度と書かれています。預けた翌日に解約したら3%減って返ってくる——これは何を意味するか。銀行は販売した時点で、元本の3%相当の利益をすでに確保しているということです。あなたの100万円は、預けた瞬間に実質97万円から走り始めています。貯蓄型保険の「保険料に溶けた経費」、外貨預金の「レートに溶けた手数料」と、まったく同じ構造がここにもあります。

③仕組債を開ける——下がれば大損、上がっても打ち止め

仕組債はさらに踏み込んだ商品です。代表格のEB債(他社株転換可能債)は「債券」という名前ですが、中身はデリバティブ(オプション取引)の塊です。

仕組みを一番シンプルに言うとこうなります。

  • 特定の株(参照銘柄)の値動きに連動し、株価が観察期間中に一度でも大きく下落(例:40%超)すると「ノックイン」。満期に元本ではなく、値下がりした株式そのもので償還されます。つまり大損
  • 逆に株価が一定以上に上がると「ノックアウト」で早期償還。値上がり益はもらえず、高い金利も予定期間分もらえずに打ち切り

整理すると——下がれば損失は大きく、上がっても利益は金利分で頭打ち。「下がっても上がってもうれしくない」と評される所以です。

ではあの高いクーポン(金利)は何の代金か。金融庁が答えを書いています。高金利の主な源泉は、株価が下落したときに投資家が大きな損失リスクを負うことの対価——専門用語で言えば、あなたは知らないうちに「オプションの売り手」にさせられていて、クーポンはそのプレミアム(保険料の受け取り)です。オプションの売りは、プロの世界では「利益限定・損失甚大」のポジションとして取り扱い注意の代名詞。それが「高利回りの債券」という顔をして窓口に並んでいたわけです。

④金融庁が出した数字と、業界に起きたこと

ここからは私見ではなく、金融庁の公表資料(資産運用業高度化プログレスレポート2022)の話です。

  • 実質コスト:EB債の実質コスト(元本と公正価値の差)は投資元本に対して平均5〜6%程度。しかも平均0.6年ほどで償還されてしまうため、年率換算では8〜10%程度に達する——低コストのインデックス投信(年0.1%前後)の50〜100倍のコストです
  • 結論:「株式との相関が強い一方でリスク・リターン比は劣後するため、株式に代えてEB債を購入する意義はほとんどない」——規制当局がここまで書くのは異例です
  • 実例:分析サンプルの中には、わずか3ヶ月で元本の8割を失った例もあった
  • 売り手側の構造:販売側は短期間で収益を上げやすく、償還済みの顧客に繰り返し売る「回転売買」類似の行動への誘因が働きやすい商品性だと、当局自身が指摘

この指摘を受けて2022年、地銀系証券を中心に多くの金融機関が仕組債の販売を一斉に停止しました。元組成担当者の「複雑すぎて、証券会社の中でも理解している人はほとんどいない」という証言まで報じられています。売っている側が分かっていない商品を、買う側が分かるはずがありません。

⑤「もう売ってないんでしょ?」——いいえ、生きています

ここで大事な現在地の話です。仕組債は禁止されたわけではありません

2022年の販売停止は各社の自主判断で、販売を続けた証券会社もあります。2023年には業界ルール(日本証券業協会のガイドライン)が改正され、勧誘していい顧客の基準を定めること、販売対象顧客を限定すること——という縛りは入りましたが、裏を返せば「条件を満たせば今も売れる」ということです。

そして仕組預金の方は、規制の波をほぼ受けずに今も普通に売られています。ネット銀行の商品一覧に載り、キャンペーンのメルマガも届く。仕組債が「証券会社で富裕層が遭う商品」だとすれば、仕組預金は普通の人が普通に遭遇する商品です。絶滅したのではなく、売り場を変えて生きている——だからこの記事を書いています。

⑥じゃあどうするか——1分ルール

対策は、過去2回より簡単です。1行で済みます。

仕組みを1分で人に説明できない商品は、買わない。

普通の定期預金は説明できます。「預ける、満期に金利が付いて返ってくる」。インデックス投信も説明できます。「世界中の株を少しずつ全部買う」。では仕組預金は? ノックイン、ノックアウト、参照銘柄、早期償還条項、銀行側のコールオプション——説明し始めた時点で、もう1分を超えています。

このルールを実際に商品説明書で使うときの目印も置いておきます。次の文言を見つけたら、それは仕組○○のサインです。

  • 当行の判断により、満期日が延長(または繰り上げ)される場合があります」
  • 原則として中途解約はできません
  • 「満期時に元本が外貨で払い戻される場合があります」
  • 参照銘柄」「ノックイン」「早期償還条項

どれも、各銀行・証券会社の商品説明書に実際に書かれている文言です。つまりリスクは書面にちゃんと書いてある——読み方さえ知っていれば、入口で見抜けます

そしてもう一つ、シリーズを通しての原則を。高い金利には、必ず代金があります。あなたが気づいていないだけで、何かを売らされている——リスクか、選択権か、流動性か。「何を売ったのか」が自分で言えない商品は、値段が分からないまま売り物にされているのと同じです。

すでに保有している人は、焦って投げる前にまず現在値と条件の確認を。仕組債は途中売却すると大幅に不利な価格になることが多く、仕組預金は中途解約で確実に削られます。満期・償還まで持つ方が傷が浅いケースもあるので、解約条件と早期償還条項を読んでから、必要なら金融機関に書面で確認を。次に同じものを勧められたときに断れれば、それで十分勝ちです。

まとめ:複雑さは、バグではなく仕様

  • 仕組預金の高金利の正体は、満期・通貨・解約の自由を銀行に売り渡した代金。預入直後の解約で元本の3%が消える商品もある=売り手の取り分が最初から抜かれている
  • 仕組債(EB債)のクーポンの正体はオプションの売りのプレミアム。下がればノックインで大損、上がっても早期償還で打ち止め
  • 金融庁の試算で実質コストは年率換算8〜10%。当局が「株式に代えて購入する意義はほとんどない」と公式レポートに記し、業界の多くが販売を停止した
  • ただし禁止はされていない。仕組債は条件付きで、仕組預金は今も普通に売られている
  • 防御は1行。仕組みを1分で説明できない商品は、買わない

貯蓄型保険は経費を保険料に溶かし、外貨預金は手数料をレートに溶かしていました。仕組預金・仕組債は、その上を行きます——コストどころか、リスクの形そのものを複雑さの中に溶かしている。複雑なのは偶然ではありません。比較できない商品は競争に晒されず、理解できない客は値切らない。複雑さは、バグではなく仕様です。

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