①「税金の安い海外で、ほったらかしで増える」——その紹介、一度立ち止まる
シリーズ第15回は、オフショア投資を開けます。
「マン島や香港など、税金の安い海外の金融機関を使って積み立てる」「日本の制度より有利」「保険みたいなもので、ほったらかしでいい」。——こういう話を、知人や、知人の知人、あるいはセミナーや個別の紹介で持ちかけられた人は、少なくないはずです。「普通の人は知らない、海外の特別なルート」。そう言われると、自分だけが得をする入り口に見えてきます。
でも、いつもどおり立ち止まります。この「特別なルート」の中身は、本当に有利なのか。 手数料と契約条件を開けて、値札を見ていきます。
②開ける(その1)——正体は、超長期で縛る「海外版の積立商品」
まず、仕組みから。オフショア投資として個人に勧められるものの多くは、海外(税制のゆるい地域)の金融機関が用意した、長期積立タイプの商品です。中身は、海外版の積立保険や、変額の運用ラップに近い。「保険みたいなもの」と説明されるのは、そのためです。
そして特徴的なのが、契約期間の長さ。15年、20年、25年といった超長期で組まれ、海外の口座やクレジットカードから、毎月・毎年、自動で引き落とされていきます。一度始めると、長い年月、お金を預け続ける前提の設計です。
ここまでで、ひとつ引っかかってほしい。「海外の、普通は知らないルート」を、なぜ向こうから熱心に教えてくれるのか。 その答えは、次に開ける手数料の中にあります。
③開ける(その2)——増やす仕組みより、手数料の層と「解約の鎖」が目立つ
オフショア投資のいちばんの問題は、手数料が何層にも重なっていることです。口座の管理手数料、中で運用するファンドの手数料、そして——紹介してくれた人や代理店に入る販売手数料(コミッション)。この何層もの手数料が、毎年あなたのリターンを削っていきます。「海外で増える」はずが、増えた分の多くが手数料で抜けていく——これが実態に近い。
そして、もうひとつ。途中で解約しようとすると、重いペナルティがかかる設計が多い。とくに最初の数年でやめると、積み立てたお金が大きく目減りする、あるいはほとんど戻らない、というケースすらあります。長期で縛られ、抜けようとすると罰金を取られる。 増やすための仕組みというより、長く預けさせ続けるための”鎖”が、いちばん頑丈にできているのです。
熱心に勧められる理由も、これで見えてきます。紹介者に大きな手数料が入るからこそ、熱心に勧誘される。 あなたのために特別なルートを教えているのではなく、勧める側にメリットがある——そう考えた方が、現実に近いのです。
④公的な裏付け——「海外で節税」は通用せず、守ってくれる制度も薄い
「海外=節税」という売り文句にも、開けるべき中身があります。
まず税金。日本に住んでいる人は、海外で得た利益にも日本の税金がかかります(全世界所得課税)。 海外の口座で運用したからといって、日本の税金から逃れられるわけではありません。むしろ、海外資産の申告や為替の計算で、手続きはかえって複雑になる。「海外だから非課税でおいしい」は、居住者にはまず当てはまりません。
次に、保護の薄さ。こうした商品は、日本の金融庁に登録のない海外業者や、その紹介者を通じて売られていることが多い。金融庁も、無登録の海外業者による金融商品の勧誘には、繰り返し注意を促しています。国内で登録のない相手と契約すると、トラブルが起きたときに法的に守られにくい。 遠い海外の業者を相手に、個人が泣き寢入りになりやすい構図です。
そして、いちばん大事な対比。いまの日本には、新NISAやiDeCoという、国が用意した非課税の正攻法があります。 わざわざ高コストで、解約も難しく、保護も薄い海外商品を選ばなくても、非課税で長期投資できる器が、国内に、しかも低コストで存在しているのです。
⑤このシリーズ全体の、最初のふるい
ここで、第3回からの1分ルール——「仕組みを1分で説明できない商品は買わない」——を当ててみます。
オフショア投資の、手数料の全体像と、途中解約したときにいくら戻るのかを、1分で、紙に書いて説明できるでしょうか。たぶん、できません。何層もの手数料、長期の縛り、解約ペナルティ——そもそも「1分で説明できない」ように作られている。それ自体が、答えです。
そして、第13回とつなげてください。熱心に勧められるものほど、勧める側にメリットがある。 紹介経由で熱心に持ちかけられた——それ自体が、最初のふるいです。「あなただけの特別なルート」と言われたら、まず一歩下がる。 それだけで、入り口の多くを避けられます。
⑥じゃあどうするか——「海外」に夢を見る前に、国内の非課税枠を埋める
やることは、拍子抜けするほど地味です。海外の特別なルートを探す前に、まず国内の非課税制度(新NISA・iDeCo)を、自分のペースで埋めていく。 低コストのインデックスファンドを、長く持つ。それで、ほとんどの人にとっては十分です(第4回)。
もし、それでも海外の話を持ちかけられたら。その場で契約しない。 手数料の全額(毎年いくら引かれるか)と、途中解約したときに戻る金額を、口頭ではなく書面で出してもらう。出し渋られたり、説明が複雑で要領を得なかったら、それが答えです。「おいしい話」ほど、文字にして値札を確かめる。
なお、投資にはリスクがあり、何を選ぶかは最終的にあなた自身の判断です。私は「海外の口座を持つこと」自体を否定しているのではありません。ただ、手数料が重く、長期で縛られ、保護も薄い商品を、わざわざ資産形成の中心に据える必要はない——それをお伝えしたいだけです。
まとめ:開けたら、増やす仕組みより「鎖」が頑丈だった
- オフショア投資の正体は、超長期(15~25年)で縛る、海外版の積立商品。「保険みたいなもの」と説明されることが多い
- いちばん頑丈にできているのは、何層もの手数料と、途中解約の重いペナルティ。増やす仕組みより、預けさせ続ける”鎖”が目立つ
- 熱心に勧められるのは、紹介者に大きな手数料が入るから。あなたのための特別なルート、とは限らない
- 「海外=節税」は、日本の居住者にはまず通用しない(全世界所得課税)。無登録業者経由が多く、トラブル時の保護も薄い
- いまは新NISA・iDeCoという国内の非課税の正攻法がある。高コスト・低保護の海外商品を選ぶ理由は乏しい
- 防御は、国内の非課税枠を先に埋めること。海外の話は、手数料と解約条件を書面で確かめてから
このシリーズで、私はずっと「中身を開けて値札を見よう」と書いてきました。オフショア投資の箱を開けて、いちばん頑丈にできていたのは、増やすための仕組みではなく、長く縛りつけるための鎖と、何層もの手数料でした。海外の特別なルートを探しに行かなくても、増やす道は、国内に、もっと安く、もっと自由な形で用意されています。 わざわざ遠回りして、鎖を自分の足にかける必要はないのです。

