①「年金代わりに。生命保険代わりに。しかも節税になります」
シリーズ第11回は、ワンルームマンション投資です。
第10回のサブリースは、土地や家を持つ世代の話でした。今回のターゲットは逆で、20代・30代の会社員。職場にかかってくる営業電話や、SNSの広告で勧められます。
売り文句は、三段重ねです。「将来の年金代わりになります」「もしものときは生命保険代わりにもなります」「しかも、節税になりますよ」。さらに「ローンの返済は家賃収入でまかなえるので、毎月の負担はわずか。あとはほったらかしでOK」と続く。年金や老後に不安を持つ世代ほど、刺さる設計です。
でも、この三段重ねの言葉、ひとつずつ中身を開けると、別のものが出てきます。順番に開けます。
②収支を開ける——多くは「毎月の持ち出し」
まず、いちばん大事なお金の流れです。毎月、手元にいくら残るのか。
入ってくるのは家賃。出ていくのは、これだけあります。
- ローンの返済(元金+金利)
- 管理費・修繕積立金
- 賃貸管理の委託料
- 固定資産税
- 入居者が入れ替わるときの広告費・原状回復費
家賃から、これら全部を引く。すると、多くの新築ワンルームは、毎月いくらか足が出ます。この「足が出る」分を、業界では持ち出しと言います。毎月、自分の財布から数万円を補填して維持する——「家賃でローンを返せる」の実態は、これです。
しかも入り口で、すでに損をしています。新築ワンルームは、買った瞬間に中古相場になり、価格が2〜3割下がる。新築という値札のプレミアムが、契約した瞬間に消えるからです。家賃も、新築時のプレミアム賃料を長く維持するのは難しい。価格も家賃も、スタート地点がいちばん高い——これが新築ワンルームの構造です。
③「節税」の正体——税金が戻るのは、損しているから
「でも毎月赤字でも、節税になるんでしょ?」。ここを正確に開けます。
節税の仕組みはこうです。不動産所得が赤字だと、その赤字を給与所得と相殺(損益通算)でき、納めた所得税・住民税の一部が戻ってきます。この「経費」の主役が減価償却費——建物の価値の目減りを、現金が出ていかないのに経費として計上できるものです。
本来、これがうまくいく形はこうです。現金は手元に残るのに、減価償却のおかげで帳簿上は赤字になり、税金が戻る。これが「得をする節税」。
ところが新築ワンルームは、この理想形になりにくい。理由は二つです。
- 建物はRC造で耐用年数が長く(47年)、1年あたりの減価償却費が小さい。帳簿を赤字にする力が弱い
- ②で見たとおり、そもそも現金収支が赤字(持ち出し)になりがち
結果、起きるのは理想形ではありません。実際に毎月持ち出して損をしていて、その損の一部が税金で戻ってくるだけ。しかも還付が大きいのは初期費用や減価償却が効く最初の数年で、そこを過ぎると還付は細る。一方で家賃は下がり、修繕積立金は上がっていく。「節税」を入り口に入って、出口では持ち出しだけが残る——よくあるパターンです。「税金が戻ってくる」は、裏を返せば「事業として赤字を出している」という意味なのです。
④国民生活センターが「必ず儲かるわけではない」と注意喚起
この話、私が脅しているのではありません。公的機関が、はっきり注意喚起しています。
国民生活センターは「投資用マンションの強引な勧誘に注意」として、マンション投資にはリスクがあり、必ず儲かるわけではないと呼びかけています。寄せられている相談には、こんなものがあります——電話で呼び出されて深夜まで拘束され契約してしまった、職場や社用携帯に突然勧誘の電話がかかってきた、家賃保証があると言われて買ったが赤字になっている、ローン返済が長期にわたる中で家賃収入が減って返済が苦しくなった。
相談は20代・30代が多い。将来の年金が不安な若い世代が、ねらわれている構図です。困ったときの相談先として、消費者ホットライン「188(いやや!)」も案内されています。「年金代わり」の入り口が、消費生活センターへの相談につながっている——それが現実に起きていることです。
⑤「ほったらかしでOK」の正体——リスクは言葉に溶けている
ワンルームの売り文句は、運用の腕ではありません。「年金代わり」「生命保険代わり」「節税」「ほったらかし」という、安心の言葉です。
ここで、第3回からの1分ルール——「仕組みを1分で説明できない商品は買わない」——を当ててみます。この物件が、35年ローンの金利と、毎月の諸経費と、これから起きる家賃下落・空室・値下がりを全部上回って利益を出し続ける根拠を、1分で説明できるでしょうか。「年金代わりだから」「節税になるから」は、根拠ではありません(③・②で見たとおりです)。
そして、いちばん効いてくるのが流動性の低さです。株や投信と違い、ワンルームは売りたいときにすぐ売れない。しかも売却額よりローン残高が多い「オーバーローン」になっていると、売るには差額を自腹で埋めるしかない。やめたくてもやめられない——この出口の重さが、入り口の甘い言葉には書いてありません。空室・値下がり・金利のリスクが、「年金」「保険」「節税」という言葉に溶けている。保険料がコストに、手数料がレートに溶けていたのと、同じ文法です。
ちなみに「生命保険代わり」も、すでに必要な保険に入っているなら、わざわざ高い買い物で代わりにする理由はありません。
⑥じゃあどうするか——「電話とSNSで来た投資」は、まず疑う
まず、これから勧められている人へ。向こうから電話・SNS・路上で来た投資話は、それだけで一段警戒する。本当に儲かる物件を、わざわざ見ず知らずのあなたに電話で売る理由を考えてみてください。とくに新築ワンルームは、②③で見たとおり、価格・家賃・節税効果のすべてがスタート地点でいちばん良く見えるように作られています。「年金」「保険」「節税」の言葉で判断せず、毎月の現金収支がプラスかマイナスか、その一点をまず確かめることです。
すでに持っている人は、焦って損切りに走る前に、二つの数字を確認してください。
- 毎月の本当の収支——家賃から、ローン・管理費・修繕積立金・税金まで全部引いて、手元に残るのか、足が出るのか
- ローン残高と、いまの売却相場——売ればローンを返せるのか(オーバーローンになっていないか)
数字を見たうえで続けるなら、それは判断です。「年金代わりだから」で見ずに続けているなら、それは判断ではなく放置です。
そして、このシリーズで一貫して言ってきたこと。将来の不安を営業に突かれて、その流れで大きな買い物・長いローンを背負わない。大きく増やすより、まず守る。無理にリスクを取らないことが、いちばん確実な防御です。
まとめ:「年金・保険・節税」の三語を、開けて確かめる
- 新築ワンルームの収支は、家賃からローン・管理費・修繕積立金・税金を引くと、多くが毎月の赤字(持ち出し)。しかも買った瞬間に価格が2〜3割下がる
- 「節税になる」は「事業として赤字を出している」の裏返し。減価償却の小さい新築では効果が限定的で、数年で還付は細り、赤字だけが残りやすい
- 国民生活センターが注意喚起——強引な勧誘、20〜30代に集中、「家賃保証で買ったが赤字」。相談先は消費者ホットライン188
- 最大の出口リスクは流動性の低さとオーバーローン。やめたくてもやめられない。リスクは「年金」「保険」「節税」の言葉に溶けている
- 防御は、向こうから来た投資話を疑うことと、毎月の現金収支を見ること。既保有者は「実収支」と「残債vs売却相場」を確認
このシリーズで、私はずっと「中身を開けて値札を見よう」と書いてきました。ワンルームで開けるべきは、「年金代わり」「生命保険代わり」「節税」という三つの言葉です。開けてみると、中から出てくるのは、毎月の赤字と、買った瞬間の含み損と、売るに売れないローン。甘い言葉ではなく、毎月の収支とローン残高で判断する。それだけで、この罠は避けられます。

