フードデリバリーの配達を専業でやっていると、毎年2〜3月に必ずやってくる憂鬱があります。確定申告の記帳です。
レシートの山、ガソリン代の集計、按分の計算、口座の突き合わせ……。稼働で疲れて帰ってきたあと、あの細かい作業を1件ずつ入力していくのは、正直かなりしんどいものです。
そんな記帳作業を、今年はAI「Claude(クロード)」に手伝ってもらいました。正確に言うと、チャットで相談に乗ってくれるClaudeと、ブラウザ上でマネーフォワードを実際に操作してくれるClaude in Chrome、この2つを役割分担で使いました(このあたりは後で詳しく説明します)。
結論から言うと、丸1日で数十件の仕訳を、二重計上ゼロ・検算バッチリで終えられました。しかも税理士には頼っていません。この記事では、実際にやってみた体験と、真似したい人向けの具体的な手順を書いていきます。
そもそも何を使ったのか(ここ、間違えやすい)
まず用語を整理しておきたいと思います。ネットで「AIで記帳」と調べると情報が混ざりがちなので、正確に書きます。
今回は、Claudeを2つの役割で使い分けました。マネーフォワードの画面を実際に操作してくれたのは Claude in Chrome です。これはChromeブラウザ上で動くAIで、人間の代わりにボタンを押したり、フォームに入力したり、画面を読み取ったりしてくれます。もう一方は、通常のチャットのClaudeです。こちらは「何をどう記帳するか」を整理して、指示文を組み立てる相棒として使いました。
つまり、チャットのClaudeが作戦を立て、Claude in Chromeが実際に手を動かす、という二人がかりの体制です。
なお「Claude Code」という似た名前のツールもありますが、あれはプログラミングやコマンド操作用で別物です。マネフォのようなWebサービスをブラウザで操作させたいならClaude in Chromeが正解です。ここを混同すると「あれ、思ってたのと違う」となるので注意してください。
導入手順:ダウンロードからインストールまで
「AIが苦手でもできるの?」と不安になるかもしれませんが、設定自体は数分で終わります。順番に見ていきましょう。
事前に用意するもの(ここが一番のハードル)
先に正直なことを書いておきます。Claude in Chromeは無料では使えません。 Anthropicの有料プラン(Pro・Max・Team・Enterprise)の契約が必要です。個人で使うなら、一番安いProプラン(月額20ドル前後・為替で変動)が入口になります。
「月3,000円くらいか…」と思うかもしれませんが、税理士に記帳を頼めば数万円〜が普通です。確定申告の時期だけでも契約して使い倒す、という割り切り方なら十分もとが取れます(※料金は変動するので、契約前に必ず公式サイトで最新料金を確認してください)。
用意するものは次の3つです。
- PC版のGoogle Chrome(WindowsでもMacでもOK)
- Anthropicの有料プランのアカウント(Pro以上)
- ※スマホのブラウザや、Firefox・Safariなどには現時点で対応していません。PCのChromeで使ってください。
① チャットのClaudeを使えるようにする
まずは相談役のClaudeから。こちらはインストール不要で、ブラウザでAnthropicのClaude公式サイトにアクセスし、アカウントを作ってログインするだけです。無料プランでもチャット自体は使えるので、まずは触ってみて、記帳作業に本格的に使うタイミングで有料プランに切り替える、という進め方でも大丈夫です。
▼ チャットのClaude(公式サイト)
https://claude.ai
② Claude in Chromeをインストールする
次にブラウザ操作をしてくれるClaude in Chromeです。手順はシンプルで、次の流れになります。
▼ Claude in Chrome(公式案内ページ)
https://claude.com/chrome
▼ Chromeウェブストアの拡張機能ページ(発行元がAnthropicの公式版)
https://chromewebstore.google.com/detail/claude/fcoeoabgfenejglbffodgkkbkcdhcgfn
- PCでGoogle Chromeを開く
- 上記のウェブストアページを開く(またはChromeウェブストアで「Claude」と検索する)
- Anthropic公式の拡張機能であることを確認し、「Chromeに追加」をクリック
- 追加後、Chrome右上の拡張機能アイコン(パズルのピース)からClaudeをピン留めしておくと使いやすい
- 拡張機能を開いて、①で作ったアカウントでサインインする
- ブラウザ操作の権限を許可する
これで、Chromeのサイドパネルにclaudeが表示され、指示を出せる状態になります。
⚠️ 一番の注意点:偽物に気をつける
Chromeウェブストアには「Claude」と名のつく非公式・無関係な拡張機能がいくつも存在します。必ず発行元が「Anthropic」になっている公式版をインストールしてください。マネーフォワードという大事な会計データを扱わせるものなので、ここは慎重に。発行元の名前を確認してから追加しましょう。
③ 権限モードを理解しておく
Claude in Chromeには、操作の前に毎回確認する「実行前に確認」モードと、確認なしで進める「許可なく実行」モードがあります。会計データを扱う記帳作業では、必ず「実行前に確認」寄りの設定にしておきましょう。勝手に保存されると困るので、ここは安全側に倒すのが鉄則です。
実際にやってみた:ガソリン代8か月分の記帳
最初にやったのは、1〜8月のガソリン代の月次記帳です。配達員なら誰でも持っている、あの大量のレシート。月ごとに集計した金額はこんな感じでした。
- 1月 55,360円 / 2月 55,231円 / 3月 68,400円……(8か月で合計45万円超)
これを「車両費」として月ごとに8件、マネフォに手入力していきます。普通なら日付を選んで、勘定科目を選んで、金額を打って、摘要を書いて……を8回。地味に時間がかかります。
Claudeにお願いすると、この8件をまとめて振替伝票として登録してくれました。しかも登録後に、総勘定元帳を読み戻して合計金額を検算までしてくれます。「車両費の残高が計算通りになっているか」を自分で確認して報告してくれるのです。
これが地味にありがたいところです。人間が手入力すると、8件のうち1件を打ち間違えても気づきにくいものです。AIが「合計45万5,679円で一致しました」と検算してくれると、安心して次に進めます。
AIに任せて一番よかった3つのこと
丸1日、いろんな費用を記帳してもらって、特に「これは助かった」と感じたポイントが3つあります。
1. 二重計上を毎回チェックしてくれる
配達員の経費は、現金払いもあれば口座引き落としもあります。マネフォは銀行口座と連携していると、引き落としが自動で取り込まれます。ここで怖いのが二重計上です。自動で取り込まれた明細と、手動で入れた仕訳がダブると、経費を二重に計上してしまいます。
Claudeは、記帳する前に必ず「この金額が連携明細に既に入っていないか」を検索して確認してくれました。現金払いなら連携には出ないはずですが、それでも毎回チェックします。この慎重さは、自分ひとりでやっていたら絶対に抜けていたと思います。
2. 按分の考え方を整理してくれる
配達員の記帳で一番ややこしいのが家事按分(かじあんぶん)です。自宅兼事務所の家賃、プライベートでも使うスマホ、車のガソリン……これらは「事業で使った分だけ」を経費にする必要があります。
たとえば自宅の一部を事務作業に使っているなら、家賃の一部を「地代家賃」として経費にできます。ただし床面積の割合など、根拠のある率にしないといけません。この「何%が妥当か」という相談にも乗ってくれて、月次では全額を計上して按分は決算でまとめて適用、という実務の流れも整理してくれました。
3. 「二段構え」で暴走しない
これが個人的に一番の安心ポイントです。Claudeは、いきなり保存せず、まず「DRY_RUN(ドライラン)」として登録予定の内容を提示してくれます。こちらが内容を確認して「GO」と返して初めて、実際に保存します。
会計データは間違えると面倒です。だからこの「予告→確認→実行」の二段構えは必須だと思います。指示するときに「必ずDRY_RUNを出して、GOを待ってから保存して」と伝えておけば、勝手に突っ走ることはありません。
真似したい人向け:具体的な手順
ここからは実際にやるための手順を書きます。
準備するもの
- マネーフォワード クラウド確定申告のアカウント
- Chromeブラウザと Claude in Chrome
- 集計済みの経費データ(レシートを月ごと・科目ごとにまとめておく)
配達員のように銀行口座やクレジットカードで経費が発生する働き方だと、口座連携で明細が自動で取り込まれるマネフォはとにかく相性がいいです。私も普段からこれで記帳しています。
ポイントは「データの下ごしらえ」です。AIは記帳作業は得意ですが、レシートの山をゼロから仕分けるのは人間がやったほうが早いです。「ガソリン代 1月55,360円」のように、日付・金額・内容を整理してから渡すとスムーズです。
▶ 売上の数字を出して記帳・確定申告まで進めた実例は、こちらにまとめています
指示の出し方(テンプレート)
Claudeへの指示は、こんな要素を含めると失敗しにくいです。
- 何を記帳するか(日付・借方・貸方・金額・摘要)
- 二段構えを守らせる(「まずDRY_RUNを出して、GOを待ってから保存」)
- 触ってはいけないものを明示(「指定した仕訳以外には触れない」)
- 二重計上チェックを指示(「連携明細に同じ金額がないか先に確認」)
- 保存後の検算を指示(「総勘定元帳で読み戻して合計を照合」)
この5点を毎回入れておくと、安全かつ正確に記帳が進みます。
つまずきやすいポイント
- セッション切れ:長時間作業していると、マネフォのログインが切れることがあります。そのときはパスワードを入れさせず、既存アカウントの選択で復帰させます。
- 摘要の誤変換:AIが摘要を入力する際、たまに誤変換が混ざります(自分の場合「兼用」が「兵用」になっていました)。最後に全仕訳の摘要を読み戻してチェックしてもらうと安心です。
- 税区分の確認:免税事業者なら税区分は「対象外」など、自分の状況に合った設定を最初に伝えておきます。
税金まわりで学んだこと(おまけ)
記帳を進めるなかで、AIに相談しながら整理できた税金の知識もメモしておきます。これは配達員仲間にも役立つはずです。
- 国民健康保険・国民年金:経費ではなく「社会保険料控除」です。帳簿上は事業主貸で処理し、控除は申告時に控除証明書の総額で入力します。
- 所得税・住民税(県民税):経費になりません。プライベートの財布から払っているなら記帳も不要です。
- 個人事業税:これは経費(租税公課)になります。事業に対してかかる税金だから、100%事業経費でOKです。
- 交通反則金(青切符):経費になりません。仕事中の違反でもダメです。
▶ 青色申告の申請忘れがなぜ「地獄」なのかは、こちらで詳しく書いています
▶ 白色申告のままで実際にいくら損したのか(年21万円)は、実額で公開しています
まとめ:記帳は「AIと二人三脚」の時代へ
正直に言うと、最初は「AIに会計データを触らせて大丈夫か?」という不安もありました。でも、二段構え(DRY_RUN→GO→保存)を徹底し、毎回検算させることで、むしろ人間ひとりでやるより正確に進められました。
配達で疲れて帰ってきた夜、あの記帳地獄と向き合わなくていい。金額を整理して渡せば、あとはAIが下書きしてくれて、自分は最終確認だけ。これは想像以上に楽でした。
確定申告の記帳に毎年うんざりしている配達員仲間には、一度試してみる価値があると思います。もちろん、数字の最終確認と、微妙な税務判断だけは自分の責任で。そこさえ押さえれば、記帳はもう地獄じゃありません。

